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※素人の戯言なので観賞本数増えるごとに点数は微調しています。悪しからず。

2017年1月14日土曜日

映画『アイ・イン・ザ・スカイ 世界一安全な戦場』95点



圧倒的な緊張感で描かれる新時代の戦争映画。

あっという間の104分。

これは傑作です。絶対に観た方が良いです。絶対に。


これまで個人的に戦争映画のベストは『ゼロ・ダーク・サーティー』(85点)
だったんだけど、しっかりと超えてきた。


内容に関しては貼り付けている予告を見て欲しいんだけど、
この映画が秀逸なのは、

①無人爆撃する側(イギリス&アメリカ合同軍)
②無人爆撃される側(ケニアに潜むテロリスト)
③関係ないのに爆撃攻撃に巻き込まれる一般人

この3つの視点を、どこかに偏ることなく、
完璧な構成とテンポと緊張感を持って、104分の中で描ききっていることだ。


で、さらに映画が秀逸なのは、

この3つの視点をさらに


①イギリス軍諜報機関【現場に指示を出し統率】(ロンドン)
アカデミー賞女優 ヘレン・ミレン
大佐役を演じ、さすがの存在感でした


















②イギリス内閣【攻撃決定権を持っている】(ロンドン首相官邸)
高みの見物と言われても仕方ない構図。














③ドローン操縦&ミサイル発射チーム(アメリカ・ネバダ州)
イギリスにいるヘレン・ミレン大佐から「撃ちなさい!」
って命令される辛い仕事を遂行しなければならない2人
手前はドローンを操作する隊員
奥はミサイルのスイッチを押す隊員



















④映像解析チーム(ハワイ)
※画像見つからず・・・

この人達は一番冷静というか、悪く言うと一番人間味がなかった。

なぜならドローン爆撃した後の惨状を画像チェックして

「はい、死体バラバラですけど、~ってテロリスト死んでます。
 顔かたちの特徴から一致致しました。」

って報告するという、どこにやりがいを見いだせば良いのか
全く分からない仕事を遂行するチームだから。


⑤地上部隊(ケニア・ナイロビ)
『キャプテン・フィリップス』でソマリアの海賊として
存在感放ってたバーカッド・アブディ
スマホでこの虫型カメラを操縦し、テロリストが潜伏する
家の中を覗き見するというハイテク戦争!!
実際にもっと小さい虫型カメラが存在するらしい。

⑥関係ないのに巻き込まれる一般人(ケニア・ナイロビ)
上空2万フィートから圧倒的な命中率で爆撃する














この6つの視点に細分化した上に
ただ、細分化するのではなく、それぞれの立場での
行動・葛藤・苦悩・決断を圧倒的なリアリティーで見せつけてくれる点だ。


名作『ガタカ』の監督が手がけ、似たモチーフの映画に
ドローン・オブ・ウォー』という良作があるが、














これはイーサン・ホーク演じるドローン爆撃のスイッチを押す軍人が
心を病んでいく様子を「点」で描いたものであった。


一方『アイ・イン・ザ・スカイ 世界一安全な戦場』は、
より多角的に現代の戦争を描ききる。

そしてそこで起きてしまう、人間性を問われる究極の選択。

爆撃しようとしていた最重要テロリスト(2名)が潜伏する家の前で、
(さらに自爆テロ用の大量の爆薬も虫型カメラが発見してしまう)
1人の少女がパンを売り始めてしまう。













しかし、一刻も早く爆撃しなければ、テロリストは逃げてしまうかも知れない。

撃つべきか、撃たないべきか、

1人の少女の命を取るか
テロリストを生かすことで、後々殺戮されてしまう数百人の命を取るか

マイケル・サンデル教授も頭を抱える究極の道徳授業。

お前は命令するだけかもしれねーけど、爆撃のスイッチ押すの俺だぞ!
テロリストを殺すのも俺だし、少女を殺すのも俺なんだぞ!
簡単に押せとか言うんじゃねーよ!!
民間人殺すって分かってて爆撃するの法律違反だろ!

と、憤る爆撃チーム
どっかで見たことあるなと思ったら
『ブレイキング・バッド』のジェシーじゃん!
彼の顔で見せる演技には泣かされた・・・
















「じゃあ、この後テロが起きて数百人が死んでも良いの!?
 法律違反!?どうなの法律担当!」

と、詰め寄る大佐。

この司令部も画面越しで戦争を遂行してるわけで
ちなみに奥の男性が法律アドバイザー。
「私の決断は法律的にどうなの!?アウトなの!?」
って詰められるという辛すぎる仕事。
















そして、

「決定権は内閣にあるのよ!内閣どうなのよ!
 早く決めないと逃げちゃうわよ!」

と、大佐に詰められ
様子を見守ってミサイル攻撃の最終決定権を持つ内閣
だけどこの人達、なすりつけ合って全然決めません















『シン・ゴジラ』ばりの閣僚同士の責任なすりつけ合いコント。

撃つべきか、撃たざるべきか、あなたならどうしますか?
とか言われても困るし、そんな選択肢に迫られる人生、
いくらつまれても送りたくねーよ。
わかってたけど戦争ってとにかく本当に最低最悪だな。
っていう重たい現実をこれでもかと突きつけてくる映画です。

一体どんな結末になるか、是非劇場で確かめてみて下さい。
ただ、デートムービーではありません。

そして映画終盤、
『シン・ゴジラ』ばりの閣僚同士の責任なすりつけ合いコントに
振り回され続けたアラン・リックマン演じるフランク・ベンソン中将が
(この人は軍人の立場として爆撃すべきだという意見)

この人は目の前で閣僚が決めた「撃つ・撃たない」を
電話で大佐に「撃って良いってよ」と伝える役割。
















爆撃反対派に女性閣僚に「あなた方はズルい。臆病だ。」的なことを
言われて、怒りを抑えながら静かに言い放った言葉が
とても印象的だった。そして格好良かった・・・

と、思ったけど、別にカッコイイとかじゃない。
この人の放った言葉は確かにカッコイイんだけど、
そもそもその「言葉」そのものを発さなければならない
現実、状況は全く格好良くないのだ。

でも、彼はあくまでも軍人としての「仕事」をしているだけであって、
その「仕事」上では、圧倒的に正義で有り、カッコイイし、間違っていない。

みな、それぞれ与えられた役割の中で職務を遂行するプロなのだ。

だけど、そんな職務を遂行した後、そこには達成感など一つも無く、
この映画の中に出てくる登場人物の誰1人、笑っていないのだ。

それが戦争・・・




2017年1月8日日曜日

映画『レヴェナント 蘇りし者』80点




ついにディカプリオが念願のアカデミー賞主演男優賞を獲得した。

















が、しかし。逆に言うと…

「ここまでやらないとアカデミー賞主演男優賞ってとれないんだ。」

いや、もっとディカプリオ側に立って言えば

「レオ様ここまでやってるんだからもうアカデミー賞あげて!
 もう死ぬしか方法なくなっちゃうから!」

それがこの映画に対する個人的なファーストリアクションだ。


お話としては至ってシンプル。


舞台は1800年代アメリカの西部開拓時代。
ディカプリオ演じる実在した罠猟師ヒュー・グラスの
雪山での過酷なサバイバルを描いた映画。

イニャリトゥで、撮影監督は引き続き『ゼロ・グラビティ』(100点)
ルベツキというゴールデンコンビで、
今回、2年連続監督賞を受賞。
ルベツキに至ってはゼロ・グラビティから3年連続!の撮影賞受賞。

そんな夢の豪華布陣でガッチリ固めたレオ様は
19歳の初ノミネートから4回も逃し続けるオスカーを
今回ばかりは!と獲りに来たなぁって感じなのだが、
そこまで体張らなくても!って出川哲朗氏も驚くレベルの
体当たり演技を見せてくれる。

どれくらい体当たりかと言うと

●極寒(マイナス30度近く)の撮影はほぼ照明を使わず自然光
⇒一日で撮影出来る時間は1時間程しかなかったらしい。
ディカプリオとイニャリトゥ監督。寒そう。。













そんなミスが許されない極限状態で撮影し続けると
当然役者側のストレスは膨大で、『マッドマックス』(80点)
過酷な撮影環境に耐えたトム・ハーディーすらも
キレて監督の首を絞めたらしい。もちろん仲直りしたらしいけど。
トム・ハーディー。いい味出してた。











●ベジタリアンなのに生レバーを豪快食い
劇中で飢えたレオ様がバイソンの生肉を豪快に食らう
印象的なシーンがあるんだけど、
スタッフはベジタリアンのレオ様の為に、本物そっくりのゼリーを用意。

が、レオ様はリアリティが薄れる!と豪語し、食うんだけど
思わず吐き出しちゃってる!ってのは本編を観てのお楽しみ。
それだけ気合い入ってたってことですね。


●ホントにケンカして鼻骨骨折
徹底してリアリティを求める監督は、
映画でもクライマックスとなる終盤における
トム・ハーディーとレオ様のケンカシーンで
本当に殴り合いをさせたらしい。
もちろん骨折しても撮影続行。
そう言われてみなくても抜群のリアリティ。













●熊との格闘はノースタント
話題になった大きな熊(グリズリー)との格闘シーン。











劇場で観ていて「息をのむ」ってのはこのことだなってくらい
息が出来ない程圧倒的リアルなシーンなんだけど、
ここを彼はノースタントでやりきってるんだとか。
熊はもちろんCGなんだけど、
何度も何度も地面に叩き付けられるレオ様は本人。
打撲どころじゃ済まないんじゃね?って誰もが思う。

●役作りのため1年半かけて伸ばしたヒゲ
実際のグラスとの比較














●世界に10人未満しかいない先住民族の言語マスター

と、まぁ恐らくもっとあるんだろうけど、
ありとあらゆる「体当たり演技」「過酷な撮影環境」を
これでもかと詰め込んだこの映画。
そりゃもうアカデミー賞あげてよ!って思っちゃう。
ここまでやったんだから!って。

話しとしてはサバイバル&復習っていうシンプルな構図だし、
(その裏に隠された深いテーマみたいなのがイニャリトゥなら
ありそうだけど)映像も最高に美しいけど、
とにもかくにも

「レオ様もういいよ!よくやったよ!もういいから!」

そう言う映画でしたこれは。
だから受賞出来て本当にとても良かったと思います。