注意事項

※素人の戯言なので観賞本数増えるごとに点数は微調しています。悪しからず。

2014年2月23日日曜日

映画『メイジーの瞳』78点


2014年2月23日観賞。


非常に前評判が良い映画だったので観てきた。


確かに優れた作品だったけど、何よりもまずメイジーが可愛い。
この悲しげな「瞳」が抜群













そして情けないくらいにメイジーを取り囲む大人達が自分勝手。
そんな映画。



そんなメイジー役を演じた2005年生まれのオナタ・アプリールは、
まさに「天才子役」という言葉がふさわしい。


そしてそんな彼女の「天才ぶり」を引き立たせているのが
この映画の演出方法である。


それは、このブログで評価した『桐島、部活やめるってよ』や、
オンリーゴッド』にも通じる、アンチ台詞主義とも言える演出法だ。


メイジーはタイトル通り「瞳」で、観賞者側にその感情を伝える。
「辛い」だとか「楽しい」だとか、そんな感情を表現するために
用意された「台詞」をほとんど発することは無い。
本当はとても「辛い」のに。
こんな風に「表情」だけでその時の感情を表現する

















ではなぜメイジーは「辛い」のか?


この物語で6歳のメイジーは、とても複雑な境遇に置かれている。
多忙でほぼ家にいない美術商の父と、ロックスターの母。
二人とも自分中心で地球が回っている

















この二人はとにかく自由でお互いにプライドが高く喧嘩ばかり。
当然、そんな夫婦は離婚するしか選択肢は無く、
メイジーはそれぞれの家を行ったり来たりすることになる。

それだけでかわいそうなのに、
メイジーは真夜中に移動のためにたたき起こされたり、
メイジーの目の前で放送禁止用語連発の大げんかをしたりする。

そこでメイジーは何をしているかというと、
ただただ黙ってその様子を見ている。そして受け入れる。
















「パパ、ママ、もう喧嘩をやめて!」

そんな昼ドラみたいなちんけな台詞は一切発しない。
とにかく彼女は悲しげな「瞳」で、ただただ静かに観ている。

だってそりゃそうだ。
6歳の子供が、大好きな両親が目の前で喧嘩していたら
怖くて何も言えない、そんなの当たり前じゃ無いか?

自分の両親が喧嘩しているのはほとんど見たことがないが、
軽い口げんかみたいになっているのを目の前で見るのさえ
とても不快で、一刻も早く終わって欲しかったけど、
何か怖くて、ただただ見ていた記憶がある。

子供なんてそんなもんだ。
何も言えない。何も言える力なんて持っていない。
だから両親は絶対に子供の前で喧嘩するべきじゃ無い。

なんていう教育論を語りたいわけじゃないんだけど、
そういうメイジーの「感情」を画の力だけで
観客に想像させるという演出はとても際立っていた。


そんな演出方法を徹底した映画だからこそ、
メイジーのかわいそう度合いと大人のクソっぷりが際立つ。

あれだけ

「メイジーは俺のもんだ!」
「メイジーは私のものよ!」

とか、声高に叫んでいた両親はというと、
忙しい父はベビーシッターに、母は新恋人にメイジーを預ける始末。

カリスマリーダー役のスカルがルド。
やっぱりイケメン!
ちなみに右はベビーシッター

















両親は決して悪い人ではないし、
メイジーも彼らのことがとても好きなことは伝わるんだけど、
二人そろってとにかくメイジーに会うと目一杯抱きしめて、

「メイジー愛してるわ。本当に愛してる!」

とか言う。


ところが行動に言葉が伴っていないから
とてつもなく薄っぺらく、浅はかで、何も心に刺さらない。


そう、メイジーが言葉に頼らずに喜怒哀楽を示してくれるのに対して、
このシーンが一番好き
この映画のもう一つの優れた点はメイジーの衣装
超可愛い
































下らない大人達は、「言葉」でメイジーとの隙間を埋めようとする。
そんな方法では隙間は埋まるはずが無く、溝は広がる一方。

その向かう先は・・・
ネタバレになるので書かないが、是非とも作品を観て確認して欲しい。


ついでに褒めると、この映画は抜群に画が美しい。
そしてメイジーの衣装センスが抜群。
こんな服が似合う娘の方が少ない気もするけど























そんなこんなで、現在の映画界における流行とも言える
アンチ台詞主義的映画として質の高い一本であった。


2014年2月22日土曜日

映画『エージェント・ライアン』60点



2013年2月18日観賞。


観なくても話の展開が読める安定の佳作映画。
このブログで言うと70点を超えることが無いだろうな
と思いながらチケットを買って観賞スタート。

そんなことを分かっていてもたまに観たくなる。
そういう種類の映画って、それはそれで楽しい。


ただ、期待感としてはボーンシリーズに通じる
スリルとサスペンス感だったんだけど、
そういう意味では少し物足りなかった。


24 -TWENTY FOUR』にしても、ボーンシリーズにしても
スパイアクション系の主役にありがちなのが、「圧倒的孤独」だ。

大統領に直電出来るジャックバウワー

ジャックより機敏なジェイソンボーン































ジャックもボーンも圧倒的孤独で彼らは全てを失っている。
だからこそ無謀とも思えるテロに立ち向かう彼らの目は
どこかもの悲しく、テロリストを圧倒的な強さで制圧したところで
彼らは決して笑ったりしない。

でもだからこそ観賞者側は応援しやすくなったりするんだけど、
今回のエージェント・ライアンは、その点で常識外。


スタートレック』を始め、
のりにのってるクリスパイン演じるライアンは全く孤独では無い。
嫁さんは美人過ぎるキーラ・ナイトレイだし、















彼にはしっかり守るものがあるのだ。

もちろんアフガン戦争で重傷を負ったとか、
CIAであることを嫁さんに伝えられない葛藤あるある的な
闇は背負っているんだけど、その闇は深くない。

事件に巻き込まれてあっさり嫁さんにCIAってことばらしちゃうし、
何なら嫁さんは超出来る女でスパイに協力して大活躍。

とにかく終始このシリーズは前向きな印象のまま
テロリストに対峙して、事件を解決に導いていく。

敵はもう少し強くあって欲しかったけど、
そういう意味ではスパイアクションとしては斬新な作りだった。


でもそうなると当然こういう映画に必要な
スリルとサスペンスは物足りなく感じるわけで。
DVD観賞で良かったかもしれません。


そんな消化不良状態なので、余談ですが、
綺麗な嫁さん役のキーラナイトレイは個人的に好きな女優の一人で、
トニースコットとコンビを組んだ『ドミノ』はお気に入り作品です。





















カット割り細かすぎ、編集がオシャレすぎで、
画面に酔いそうになるけどそんなの関係ない。
画面転換と場面転換が激しすぎて脚本がざるに見えるし、
ストーリー入ってこないけどそんなの関係ない。
キーラ・ナイトレイは最高にクール。













映像に携わる人間として、この映画は人生に残る映画になりました。

というわけで、この映画のDVD片手に
編集に臨むことを欲したくなった僕は迷わずAmazonで1クリック。
PR編集などに役立たせるべく、勉強させて頂きます。

改めてトニースコット師匠に合掌。

DVD観賞作品まとめ Vol.1

DVDで観た作品の感想はよほどのインパクトが無い限り、
ブクログ」に記すようにしていたが、
「芦田太郎の映画日誌」というタイトルであるからには、
せっかくだからこちらにもまとめて記載しておこうと思う。


●『ものすごくうるさくて、ありえないほど近い』★★★★☆
監督 : スティーブン・ダルドリー
出演 : トム・ハンクス  サンドラ・ブロック  トーマス・ホーン














良作。
オスカー役の子供が素人とは思えない愛すべき怪演。
そして泣ける。そして音楽が最高に良い。

個人的にはラストシーンが印象的。
オスカーが会った人達に手紙を書いて朗読するシーン。泣ける。

「何もないより失望した方がずっと良い」
こんなこと言える子供はもやは子供では無いけど、しびれる台詞でした。






●『ブロンソン』★★★★☆
監督 : ニコラス・ウィンディング・レフン
出演 : トム・ハーディ





















トムハーディはこの映画をきっかけに

ダークナイトライジングのベイン役を掴んだらしいけど、












それも納得の傍若無人の暴れっぷり。


イギリスで最も有名な囚人と言われる実在の人物
チャールズ・ブロンソンを描いた映画だが、
とにかくこのブロンソンという男はむちゃくちゃ。

有名になりたいという理由だけで人をぶん殴りまくり、
刑務所でもひたすらに誰彼かまわずぶん殴る。

その暴力性は理不尽極まりないが、
そんな暴力性を描くのにこれ以上適役はいない

ニコラス・ウィンディング・レフン監督。


相変わらずの狂った映画作りで楽しませてもらいました。

ちなみにブロンソン本人は、
34年の刑務所生活のうち、30年を独房で過ごし、
いまだに服役中らしいです。






●『トゥルー・ロマンス』★★★★☆
監督 : トニー・スコット
出演 : クリスチャン・スレイター  パトリシア・アークエット
デニス・ホッパー  バル・キルマー  ゲイリー・オールドマン




















トニースコットの隠れた良作。
脚本タランティーノ、監督トニースコットという夢の組み合わせは
見事に化学反応を起こし、豪華俳優陣達がそれを支える。
デニスホッパーはさることながら、ゲイリーオールドマンも
若かりしブラピも登場するという豪華布陣。

後に大ヒットするトレインスポッティングやスナッチの
原型を観ているようなテンポの良い群像劇は非常に見応えがあった。

ラストシーンは10分前くらいから、
あれ?これまさかエネミーオブアメリカと同じ…
なんて思わなくも無いが、思ったとしても、
トニースコット先輩の早逝を惜しみたくなる良作である。




●『127時間』★★★★☆
監督 : ダニー・ボイル
出演 : ジェームズ・フランコ





















さすがダニー・ボイル。これは名作。
映画祭では失神する人が出たほどの「あのシーン」は、
確かに目を背けたくなるほどのリアリティー。

しかし何よりも評価されるべきは、
岩に挟まれた状態で127時間、つまりほぼ1シチュエーションを
出演者1人で、高度の緊張感を保ったまま描ききる手腕。
さらに主演のジェームズブランコが最高。
大好きだけど痛い映画に見えなくも無い
スプリングブレイカーズ』での痛すぎるエイリアン役と同一人物とは思えない。






●『サンシャイン2057』★★☆☆☆
監督 : ダニー・ボイル
出演 : クリス・エヴァンス  真田広之  キリアン・マーフィ  ミシェル・ヨー





















ダニーボイルだから期待したけど、
2007年当時の最新VFXを駆使って時点で
ゼログラビティに勝てるはずが無くて、
決して悪い映画じゃ無いのに無駄にしょぼく見えて、申し訳なくなった。

とはいえ、映像はとても綺麗で、我らが日本人、真田広之も出ています。
公開当時に映画館で観たかった映画。




●『ウォンテッド』★★★☆☆
監督 : ティムール・ベクマンベトフ
出演 : ジェームズ・マカヴォイ  アンジェリーナ・ジョリー
    モーガン・フリーマン





















今更知ったけど、この監督凄いわ。映像革命。
ロシアの新進気鋭らしいけど、その名にそぐわぬ。

話自体は荒唐無稽とも言えるほどのスーパーアクション映画。
打ち方次第で弾丸の弾道は変えられる!という
絶対にあり得ない漫画の世界。

とはいえ、アンジー×マカヴォイ×モーガンフリーマンという
豪華キャストもしっかり生かした秀作アクション映画でした。






●『スノータウン』★★★☆☆
監督 : ジャスティン・カーゼル
出演 : ルーカス・ピッタウェイ  ダニエル・ヘンシュオール





















オーストラリアで実際に起きた
「スノータウン男女12人猟奇殺人事件」を元にした映画。

近年のオーストラリア映画は、
80点を付けた『アニマルキングダム』を始めレベルが高いが、
アニマルキングダムほど面白くない。ひたすらに怖い。
純粋無垢な青年が純粋な悪に汚染されていく様子が
生々しく、一切の妥協無く描かれていてひたすらに不快。





●『セシル・B ザ・シネマ・ウォーズ』★★★☆☆
監督 : ジョン・ウォーターズ
出演 : スティーヴン・ドーフ  メラニー・グリフィス





















2000年に製作された『地獄でなぜ悪い』のアメリカ版のような映画。
『地獄でなぜ悪い』よりもはるかにバカバカしさがイキきっていて、
ハリウッド映画界への痛烈な皮肉と嘲笑が込められた
メッセージ性の強い作品に仕上がっている。

さらに驚いたのはジェイク・ジレンホールの姉ちゃん
マギー・ジレンホールが今では考えられない
イカレ女を見事に演じきっていること。









2014年2月11日火曜日

映画『ウルフ・オブ・ウォールストリート』77点


2014年2月9日観賞。


180分=3時間にも及ぶスコセッシ×ディカプリオ劇場。
その3時間ひたすらに下品。徹底的に下品。
レオ様とその奥様
奥様はノーパンだよ!!

















毎回グロテスクともいえるほどの徹底的な描写にこそ
名匠マーティン・スコセッシの本領があるのだが、
そんなスコセッシが71歳にして・・・
いや、71歳って完全なおじいちゃんなのに!
このおじいちゃんが71歳にしてここまで下品な作品を
作り上げるエネルギーと想像力に恐怖すら感じる。















本気を出して「下品」と「金」を徹底的に、躊躇無く、
これでもかと言うほどに「映画」を通して描ききったのが今作。


71歳の巨匠スコセッシにかかれば、
「下品」という言葉に唾を吐きかけるかのように
「下品」を最上級までに突きつけて映像化する。














だからR-18も納得。
不愉快になって途中退出する人がいたって納得。

SEX・SEX・ドラッグ・ドラッグ・ドラッグ・ドラッグ・ドラッグ!!!
会社でパーティーなんて当たり前!
会社でも会社のエレベーターでもSEX!!!












証券マンってここまでチャラいの?
俺の同期で野村や大和に就職したやつらは大丈夫なのか?
と、不安になるくらいにとにかく徹底的に
金と女とドラッグと全ての欲にまみれたディカプリオが180分。


そのディカプリオのイカレぶりはとにかく最高で妥協が無く、
これは初のアカデミー賞も夢では無いというか与えるべき!
















彼の存在だけでこの映画はプラス5点くらいの価値がある。
彼の演技だけでもこの映画は3時間観る価値がある。


だが、逆に言えばこの映画はそれだけの映画とも言える。

繰り返しになるが、71歳の巨匠スコセッシがディカプリオと共に
一切の妥協無く、実話に基づいた「人間の欲」と「金」を、
徹底的に「下品に」エンターテイメントとして描ききった。
普通に面白くて笑ってしまうし、下らなさすぎて、下品すぎて
苦笑という名の笑いがこぼれるシーンもたくさんある。

たまにあるカメラ目線&ドヤ顔で観客に語りかけるレオ様
このシーンは好きだ














そうやって、この映画はただ何も考えずに3時間楽しめば良いのだ。


拝金主義の是非がどうだとか、
アメリカ経済の矛盾だとか、
そんな政治的、社会的談義は必要ない。


ただ単に「欲にまみれる」とはまさにこのこと!
「下品」「外道」とはまさにこのこと!

ウーマンラッシュアワーの村本や有吉すらも
ただの真人間にしか思えないほどの
まさに「下衆の極み」を120%映像化した
スコセッシ&ディカプリオの決死の挑戦を観て損は無い。

ただ3時間はちょっと長い。




「このペンを俺に売ってみろ」

あなたはどう答えるだろうか?





2014年2月10日月曜日

映画『ザ・イースト』80点


2014年2月4日観賞。

米新聞紙「L.A. Times」が選ぶ
“2013年最も過小評価された映画”ランキングで
1位に選ばれたのがこの『ザ・イースト』だ。

※ちなみに2位は現在公開中の『LUSH』、
3位はこのブログでも79点を付けた『プレイス・ビヨンド・ザ・パインズ


確かにもっと話題になって良い秀作だった。


製作には名匠リドリースコットが名を連ね、
何よりも凄いのが、主演のブリット・マーリング。
彼女の名を世に知らしめたのは『アナザープラネット』
この作品も実は脚本に名を連ねる才女
























製作・脚本・主演の3役を兼ねた彼女は、かなりの才色兼備で、
ジョージタウン大学で経済学の学位を取得し、
ゴールドマンサックスの内定を蹴って業界入りしたという
異色の経歴の持ち主。


だが、この作品を観れば、
その経歴から繰り出された脚本であることに納得せざるを得ない。

そんな高レベルの社会派サスペンスに仕上がっている
この映画のストーリーを先におさらいしておこう。


環境汚染や健康被害をもたらす企業を標的に過激な報復活動を重ねる
環境テロリスト集団「イースト」からクライアント企業を守るため、
正体を偽ってイーストへ潜入した元FBI捜査官のサラ。

当初は彼らのやり方に反発を覚えるが、次第にその理念に正当性を感じるようになり、
カリスマ性をもつリーダーのベンジーにも心ひかれていく。

やがてイースト過去最大のテロ計画が実行されることになり、
サラは当初の目的と自らの本心との間で揺れ動くが……。

映画.comより引用


「環境テロリスト」という言葉、存在自体、
我々日本人にとってあまり馴染みのないものだ。

唯一と言って良いほど馴染みがあるのは、日本の調査捕鯨船も
攻撃の対象になったことで有名なシーシェパードだろう。














実際自分もこの映画を観るまで、環境テロリストに関しては
シーシェパードくらいしか名前を知らないし、
その活動内容すら全くといって良いほど理解していなかった。


だが、この映画は観賞者に「環境テロ」の是非を
主人公のサラを通じて、痛いほどに突きつけてくる。

こういう観賞者側に考えさせるキッカケを与える、
そんな映画が良い映画だと思う。



この映画における環境テロリスト集団「イースト」が行う
「環境テロ」は、例えばこんなものだ。


ある製薬会社が新薬を開発した。
その新薬は難病(何の病気か忘れた・・・ごめんなさい)の
特効薬として有効で、副作用もないまさに夢の薬・・・


だが、イーストは信じない。
そんな都合の良い薬があるわけがない・・・
薬局で安価に買えるはずがない・・・

それもそのはず。
イーストのメンバーの知り合いは、その薬の副作用で
脳に障害を起こしてしまい、最終的には鏡で自分を見ても
自分であることを認識できなくなってしまったのだ。

当然そんな体になった人は、社会的地位を奪われてしまい、
最後には自殺してしまう・・・

そんな薬を大手をふるって、CM打ちまくって笑顔で宣伝する
クソ企業を許すわけには行かない・・・

ちなみにイーストには医学の専門家もいるので、
学術的アプローチからのテロの根拠も持ち合わせている。

そしてイーストは行動=環境テロを起こす。
その企業の開発記念パーティーに潜入し、
企業幹部達が乾杯の際に飲むシャンパンに、
その新薬を入れ込むのだ。

※ちなみにこれはスカルスガルド演じるイケメン過ぎるイーストのリーダー
















製薬会社のCMが「真実」ならば、
いや、本来「真実」でしかあり得ないはずなのだが・・・
そのシャンパンを飲んでも何の問題も無いはずなのだ。

そしてイーストは犯行声明を発表する。
我々は製薬会社の役員達のシャンパンに、
お前らがどや顔で作り上げた新薬を投入したと・・・

企業側は自信を持ってカメラの前でこう答える

「何の問題もありません。だってこの薬は安全なんですから!」

そりゃそうだ。だって普通に薬局で買える薬なんだから。
問題が起きてしまったら、僕らは何を信用して薬を飲めば良い?


ところが・・・


数日後、カメラの前で「問題は無い」と言っていた役員の女性は

「なんだか私が私じゃ無いみたいなんです・・・
 自分が誰だかわからない・・・」


イーストのテロは見事「成功」してしまうのだった。

この一部始終を劇場で見せつけられた僕は、
何か胸くそ悪く、感情の居所がわからなくなった。

あなたはこのテロを支持するだろうか?
または正面切って不支持と言えるだろうか?


かつてガンジーは、

「目には目を」では世界が盲目になるだけだ。

と言ったらしいが、


イーストの環境テロは、まさに「目には目を」である。
一体本当の「悪」は誰なのか?どこにあるのか?
環境テロという行為でしか、真実を議論できないのか?


観客である我々が突きつけられる、「究極の道徳授業」は、
潜入スパイとして彼らを監視し、罰する側の人間であるはずの
サラのメンタルを大きく揺さぶってしまう。

左のエレン・ペイジは良い味出してた
SUPER!のあの子とは思えない・・・















さらに、彼女の潜入スパイとしてのメンタルをブレブレに
してしまうのがイケメンカリスマリーダー・ベンジーの存在だ。















単純に言えば、彼女は彼に恋してしまう。
捜査に支障来しまくり、公私混同甚だしい!

ネット上のレビューでは、

彼に抱かれたことによって急に彼女に感情移入出来なくなった、
そこで「ザ・女」みたいな感情論見せられたら説得力ないでしょ・・・

みたいな意見を散見するが、僕はそうは思わない。
サラを演じ脚本を担当した本人もインタビューで、

「映画『ソルト』は好きだけれど、
あれは完全に男性の観点から執筆され、
それを女優が演じた感じだった。

女性が主人公のスパイ映画は、
常に男性の観点で描かれている気がするの。

だからわたしたちは、この映画で主人公の女性が
映画の経過とともに、より女性的になっていくように描いたの」


と、答えているように、意図的に「女性らしさ」を
脚本の展開に盛り込んだことが分かる。

完全にカリスマリーダーに惚れちゃってるサラ














ここからは自分の想像になってしまうが、
意図的に「女性らしさ」を盛り込むことで、
つまりそこに「感情」を差し込むことで、
彼女の言う「男性的スパイ映画」によくある、
「善悪二元論」に囚われることを避けたのでは無いか。


女性の感情論を挟むことであえてメッセージ性みたいなものの
明確性を取り払い、ネットにおける批判の言葉を借りれば、
「説得力」を排除し、あくまでも観客に善悪を考えさせる、
そういうスタイルを貫いたのでは無いか。

そう解釈するのであれば、というか勝手にそう解釈してみると、
この映画は非常の質の高い、
過去例を見ないスパイ映画であると言えるし、
「傑作」の部類に入る80点を与えてしかるべき映画だと結論づけた。


長くなったが、この映画でもう一つ非常に印象に残ったシーンがある。
それは、イーストのメンバーが遊びで行うゲームだ。














こんな風に皆で円形に座り、
順番に真ん中に置いたビンを回す。

そして、そのビンが止まった方向にいる人間に対し、
ビンを回した人間は、やりたいことをいう。

例えば「ハグさせて」とか。

つまりこのゲームは、日本でいう王様ゲームなのだが、
圧倒的に異なる部分がある。


それは王様の「命令」では無く、「自らの欲求」なのだ。

日本の王様ゲームは「1番が4番とキス」みたいに、
指名された人間は半ば強制的に、受動的に、
自分の意思とは関係が無く、王様の命令を受ける。

だが、このゲームでは、
王様が自らの意思を表明しなければならないのだ。
能動的なゲームなのだ。

「ハグしたい」「一緒に踊らせて」「キスさせて」などと・・・

実はこの作業って自分たちに置き換えてみると分かるけど、
なかなか気持ち悪いし、恥ずかしいし、カロリー高い。
って思うのは俺だけ?

つまりイーストにおいては、自分が思ったこと、
やりたいことをやる、言う、伝える、ってことが重要なんだ
ってことを表すゲームなんだろう。

そんな気持ち悪いゲームで、サラはイケメンカリスマリーダーに、
「キスさせて」って言うんだけど、
「ハグで良いかい?」って流されてしまう。

つまり、欲求を受け止める側にも、受動性というか、
日本における王様ゲーム的「強制」は存在せず、
自分の意思で王様の要求へのリアクションをとれるのだ。

人間とはこうあるべきだ!と見せつけるかのように
イーストたちは楽しげにこのゲームをやっているんだけど、
観ているこちらは気持ち悪くて仕方なかった。

そんな僕はまともなんでしょうか?
それとも・・・

2014年2月4日火曜日

映画『桐島、部活やめるってよ』85点



今更観賞。

これは日本映画史に残る名作でした。
DVD買ってしまった。
自分史的映画ベスト10に食い込む名作でした。

この映画が素晴らしいのは

●ニヒリズムに満ちた現代の高校生達を見事に描ききっている

●既存の青春映画を嘲笑うかのように
   心情描写の台詞を徹底的に排除し、
   登場人物の心理状況を観客に思考させる

●イケてる、イケてない、どちらでもない、これらの生徒を
   感情移入の誘導を用いずに「自然に」描いている

●高校生の如何ともしがたいニヒリズムを描きながら、
   それを打ち破る、前を向いて生きることを、
   陳腐な台詞=言葉ではなく、高校生達の「動き」で描いている

●つまりニヒリズムに満ちた現代の高校生達を描きながらも
   最終的にポジティブな映画として成立させている

⇒一切登場しない超リア充的象徴「桐島」を
   あくまでも「象徴的」に描くことで、
   以上の要素を完璧に映画内に還元仕切った


一個一個説明するのも我ながらめんどくさいので、
重要だと思うことだけ少し掘り下げて書いてみる。


従来の青春映画を嘲笑するかのように、と書いたが、
これはこの映画における特徴かつ、重要な評価ポイントだ。

この映画における高校生達は、
自分たちの気持ち=本音を安易に言葉にしない。


だってそりゃそうだ。
ドラマや映画の学園モノがどこか胡散臭いのは、
現実世界では絶対に言わないだろって言う台詞にある。

このアンチ商業主義映画的作りは、
全くテーマも物語も違うが、
先日観た問題作『オンリーゴッド(75点)』にも共通する。

つまり、「愛している」だとか「嫌い」だとか、
「感情を説明する」言葉なんて、
実生活では発すること何てほとんどないのだ。

そんなこの映画の根幹を示す、
個人的に最も好きなシーンがある。

そのシーンを説明するために少しだけ
登場人物をご紹介しよう。




この女子4人組。

帰宅部で「イケてる」風な左二人。

一番左のサナの彼氏はイケメンで全てに置いて万能な
今をときめく東出昌大演じるヒロキ。

ちなみにこのサナという女はとんでもなく嫌な奴で
誰もが嫌いになるくらいクソみたいな女。

逆に言えばそれは、松岡茉優が非常に上手く演じていると言うことだ。













そして左から二番目、
山本美月演じる校内のマドンナ・リサの彼氏は、
一度も劇中にはっきりと登場しない「桐島」だ。


つまり簡単に言えばこの二人は彼氏もいて、
見た目も可愛くて「イケてる」のだ。












そしてこの二人は、イケてるやつの特徴でもある
「一生懸命とかダサい」みたいなノリを何となく醸し出す。


その醸し出される雰囲気に何となく合わせているのが
橋本愛演じるカスミとミカだ。










この二人はバドミントン部に所属している。

帰宅部とバドミントン部。
この4人の人間関係を見事に表したシーンが冒頭にある。
僕はこのシーンがとても好きだ。

そのシーンは、
この4人組が廊下を歩きながら会話しているシーン。














帰宅部のサナがバド部のミカに言う。

「部活とかよくやってられるよね?」

するとミカは冷めた目でこう答える。

「いや、私は内申とかあるしさ…」


つまり、部活は内申を稼ぐためのもの、
別に一生懸命やってるわけじゃない、
私はあなたと一緒だよ、仲間だよ、

バド部のミカは帰宅部のサナの前で答えた一言で、
そういう目に見えない4人の意識みたいなモノが垣間見える。

で、良かったのがこの後のシーン。
帰宅部とバド部で別れ、部室前で二人きりになると、
ミカはカスミにごめんねと謝る。


私、バド本気で好きだから。
あの人達にマジなこと言ったってしょうがないし


この台詞が最高だった。


そう、「マジなこと」なんて言っても仕方がない。
僕らのコミュニケーションはそうやって成り立っている。



お前ら、本音でぶつかり合え!


金八やGTOはそう叫ぶかもしれない。
でもそんな学園生活は「フィクション」なのだ。


本当に本音でぶつかり合ったらどうなる?
そんなの成立するわけがない。


だから「マジなこと言ってもしょうがない」のだ。


映画前半のミカのこの一言で、

『桐島、部活やめるってよ』は、
既存の青春映画の常識を
ぶち破る映画であることを証明して見せた。


もちろんこれだけではない。
映画全編にわたって、このマインドは貫かれる。









































あまり書きすぎるとネタバレになってしまうが、
そのマインドの極地はやはりラストシーンだろう。


まだ観ていない方のために詳細は避けるが、

好きなことや目標や意味をもって学園生活を送るオタクが
一見全てを手にしているように「見える」万能型に、
無意識に打ち勝つラストは秀逸かつ辛辣だった。












ここでのヒロキの「涙」には泣けた。
野球部のキャプテンのフリがさらにきいていて、さらに泣けた。


でも僕が映画で初めてとも言って良い、
本当に泣いてしまったシーンはこれです。
















この男子バレー部越しに映るミカちゃんの
「行かなくて良いんだよ!」で思わず涙が溢れしまいました。











というわけで、この映画は全体的に素晴らしいですが、
個人的に最も刺さっているのは、ミカちゃんです。


もちろん神木くんの役者としての幅広さを
まざまざと見せつけた映画部のオタクっぷりにも
拍手を送りたいし、賞賛すべき点はたくさんある。

橋本愛は圧倒的に美形過ぎて、
逆にこんな高校生いねーよって思わなくもないけど。


とりあえず、観ていない方は是非観て下さい。
日本映画史に残る、
そして既存の青春映画の常識を打ち破る名作です。

エンディングテーマも切なく、映画にマッチしています。