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※素人の戯言なので観賞本数増えるごとに点数は微調しています。悪しからず。

2013年7月1日月曜日

映画『ブルーバレンタイン』95点


好きな映画である『500日のサマー』を、
よりヘビーかつ深淵に描ききった恋愛映画の快作。傑作。
人生ベスト10に確実に刻まれる名作となった。


男がいかに女を愛していようと、
そこに「真実の愛」なんてものが存在する保証なんてない。

「本当に大変なのは結婚してから」という、
恋愛、それを超えた先にある結婚における
徹底したリアリズムをこの映画は感じさせてくれる。


そしてまず、何よりも。

ノーメイク、体重の増減、そしてヌードもいとわないミシェル・ウィリアムズ、
















同じく体重を増減させ、年老いた姿を演じるために
自ら髪を抜いて役作りを行ったという
ライアン・ゴズリングの圧倒的な演技力が
この映画のリアリズムをより増長させ、傑作足らしめているのだ。
これが『ドライブ』のイケメンだと思えない!

















しかし、『ブルーバレンタイン』は、作品の前情報無しに見始めると、
しばらく何がどうストーリーとして展開するのか全く分からない。

それは、あまりにもゴズリングとミシェルの演じる夫婦が「自然」で、
ありふれた日常に見えるからだ。

こちらは完全に末期の二人













「ブルー」でない時の二人①

「ブルー」でない時の二人②
その時間は決して長くは無い。






























余談だが、個人的にこのシーンが一番好きだ。
矛盾するようだが、やはり人間の性で、ブルーな話だからこそ
こういうブルーではないシーンが印象深くなってしまう。

この映画の見所の一つに、一組のカップルを通して、
恋愛・結婚における「ブルーな時」と「ブルーで無い時」の変遷を
鮮明かつ、鮮やかに描ききっている点がある。


そしてさらにこの映画を名作たらしめているのは主演二人の演技力だ。

あまりにもゴズリングとミシェルの演じる夫婦が「自然」に見え、
しかもそれが恋愛映画によくある「愛し合っている」とか、
「冷め切った関係」とか、わかりやすい演技表現によって
観賞者に伝わってこない。

そのため見ているこちら側は、何か分からないが、
決して前向きには進まないのであろう
(タイトルや画面に映し出される映像のどことなく暗い色合いなどから想像して)、
ということを予感じみた感覚として得始める。


それを支えるのは、近年というか、長らく日本映画における
ヒット作の定番となりつつある「セカチュー的恋愛映画」に
正面切って中指突き立てたくなるほどの、
ゴズリングとミッシェルのストーリーに頼らない演技力にある。















その演技力を感じさせる源泉は、彼らの顔、顔を支える身体
(この場合、声や体に関する全ての動き)であって、
直接的な表現方法である会話や、
セカチュー的な単純な悲喜劇というストーリーでは無いのだ。
そこにこの作品というか、監督の真骨頂が見える。


ちなみにこの映画の徹底したリアリティーを支えているのは、
彼らの演技力だけでなく、その演技力を引き出すための
シアンフランス監督のドS的演出でもある。

それは、二人を実際に3週間くらい同居させて、
お互いの良いところも嫌なところも
ある程度認識させて撮影に臨ませたり、

最も驚いたのは、
シンディがディーンに妊娠を告白するシーンで、
二人それぞれに

「妊娠してることを絶対しゃべるな。」

「なにがなんでも彼女から聞き出せ。」

とシアンフランスは指示。

















実際は数十分にも及ぶらちのあかない押し問答を、
カメラを回しっぱなしで撮影し、「あの」シーンが生まれたらしい。
ここはネタバレになってしまうので、観てからのお楽しみ。

詳しくは町山智浩さんの『トラウマ恋愛映画』を。
これを読んでもう一度見るとさらに楽しめます。


とはいえ、「楽しめます」とか気軽に言えるほど
ライトでポップな恋愛映画では決してない。

カップルや夫婦で絶対に観るべきではない
みたいな触れ込みがされているこの映画だが、確かにそうだ。


「悲しいラスト」という説明句が、

「言葉とは何て陳腐な表現方法なんだ!」

と絶望的な叫びをこだまさせたくなるほど、
何ともいえない切ないエンディングシーンは、観る者の心を揺さぶる。


月9的、予定調和の恋愛映画に唾を吐きかけるような
女とは?男とは?愛とは?愛の終わりとは?
なぜ愛は始まり、終わるのか?






















そんな人間にとって、男女にとって究極の疑問を
否が応でも突きつけられ続ける極限の恋愛映画なのだ。


映画館で観たカップルの鑑賞後の気まずさを想像するとぞっとする。
家で一人で見てこんな風にのんきに感想をブログで書ける自分を幸せに思う。


少しでも今の彼氏に不満を抱えている彼女と観てしまったものならば、
彼女の決断の背中を押す可能性を大いに秘めたフィクションなのだから。

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